室伏弘子氏は、国展(国画会主催)に作品を発表されている染色家...、こちらの作品は「南のくに」と言うタイトルが付けられた型絵染め作品です。
南国の青い空に、"花"と"花びら"が舞っている...、そんな光景がモチーフになっているのかもしれません。
「型絵染め」と言うと、そもそも、沖縄の本紅型の染色手法に源流として、絵画を想わせるような図案、デザイン性豊かな図案が染め描かれることが多いんですね。
また、初期の「型絵染め」...、1960年代頃の「型絵染め」には、寓話を想わせる民芸調の図案が染め描かれた作品を多く見ることが出来ます。
この「南のくに」と言う作品なんですが、寓話的な印象も薄れ、民芸的な感じからも離れている感じがします。
色彩は明るく、柔らかな空気に包まれている。「型絵染め」としては「いま的」なんでしょうね...、現在の作家の視点で描き出されるのは絵画と同じんだと思います。
ただ、この「南のくに」に描かれているのは、どうやら「南国の花」だと思うんですが、この花の「かたち」と図案の構成、彩色の加減、そして、「花」の図案とは別に施された「斜めの白い背景」...、「南国の花」とは、春や初夏を想うべきなんですが、ちょっと見方の意識をずらしてみると、秋の風に、花や葉が舞吹かれている感じが描かれている印象を想ってしまうんですね。
こうした効果なんですが、製作者のデザイン感性だけではなくて、技術的な上手さがなくては実現できないんです。
花の色の感じなんですが、顔料の加減が、色の表現だけではなくて、型絵染めとしての質感の表現を伝えている...、顔料を刷り込んだ痕そのものを「絵の質感」としているんですね。
こうした「顔料の使い」は、実は型絵染めの初期時代の染色家の作品で見掛けることがあります。
あまり、この「顔料」のノリが濃いと、民芸臭さが強くなり、表現手法としては狭いと感じられることがある...、でも、ここでは上手く使いこなされているんですね。
それと「花」の図案の背景となっている「斜めの線」なんですが、これは染め描かれた図案に対して、見事なまでに「動き」を与えています。この「背景」は、まったく「花」の図案とは別に染められているんです。花の図案と一緒に染めているわけではない。だから、「花」に動きが現れる...、花や葉が舞吹かれている光景として眼に映るんです。
主題となる「絵」と背景の「絵」を別々に染めてひとつの型絵染めとする手法を「朧型」と称され、型絵染めの手法の中でも、珍しい染色手法なんです。
この「南のくに」なんですが、随分と手間の掛かった仕事が隙なく施されているんですが、眼にしていて、疲れる感じがしない。むしろ、リラックスした感じを伝えてくれる。おおらかな空気感が漂っているんです。
かつて、型絵染めが、寓話的で、製作者の印象を色濃く伝えることが多かったことに対して、朧型と言う高い染色手法を「それとなく」施しながら、自身の感性が気負いなく作品に投影されているんだと思います。
制作者.室伏弘子氏の心象風景みたいなものが、心地良く表現されている型絵染め作品...。