大変な嵐の日だったですが..、楽しめました。

Refoulement et mensonge昨日は、朝から台風が上陸した大荒れの一日だったんですが、フェリックス・ヴァロットンなる画家の回顧展を観るために、ひとり東京まで出掛けて参りました。

このヴァロットンって画家についても、彼が描いた画についても、全然知らない。
ただ、この画家と展覧会についてのお話を教えて貰ってから、何となく、調べていると..、「わざわざでも観に行ってもいいかもしれない」って閃く様に思い付いて、出掛けた訳です。

フェリックス ヴァロットンは19世紀末から20世紀初頭にパリで活動していたスイス出身の画家。

「冷たい炎の画家−ヴァロットン」−回顧展のタイトルです。
展示されていた作品を、観ていると「冷たい炎」と言う表現も何となく分かります。

このヴァロットンって作家は、どうやら、経済的にも、才能的にも恵まれ、そして、その人生も、他人からすると、そこそこ羨ましい人生を送ったみたいなんです。
ただ、それと同時に、そんな裕福さや幸せに対して、不自由やストレスを、慢性的に抱いていたような感じがするんですね。

展示されている作品(油彩)の多くは人物が描かれている作品だったんですが..、そこに描かれている者は、いつも身なりが良い..、都会の中で、いい暮らしをしているなって感じの連中を描いている。
けれども、一方で、キャンバスに描かれているその者たちは、どこか「安っぽい紳士/淑女」の様に感じられるんです..、愛情とか、知性とか、高貴な雰囲気という感じがないんですね。そして、彼らには笑えない滑稽さみたいなものがあるんです。

le mensongeヴァロットンは、木版画の作品をも数多く残しています。

木版画は「黒」と「白」のコントラストだけで表現された色のないモノクロームの作品..、風刺性を漂わせた物語のワンシーンを思わせます。

冷たい色彩で奥底に響く感情を密かに描く油彩と同じく、木版画は、描かれている情景そのものの他に、いつも「裏のStroyがある」ような空気が漂っている。本当のことは言わない..、「嘘」とか、「アイロニー」などの言葉が似合う感じです。

油彩画にも、木版画にも..、言葉で説明するには複雑すぎる人間関係を、適度な緊張感をもって、巧みに描き上げている感じに思いました。

フェリックス・ヴァロットンの作品を観ていると、もしかしたら、不快感を憶えるかもしれません。また、「どこが良いんだ..」と思われる人も少なくはないかもしれません。

ヴァロットン作品の毒加減は、私には、心地良いものでした。
特に美しい訳でもない、特に高尚な感じでもない、特にインテリジェンスがある訳でもない、でも..、感情とか感性が素直に作品に共感して行くのを実感出来たんです。

パリのグラン・パレ、アムステルダムのゴッホ美術館、東京の三菱一号館美術館...、世界の3都市を巡回する初めての回顧展とのことです。