手描き友禅 塩瀬.染め帯
雪持ち笹

季節を想わせる染め名古屋帯．．、塩瀬地に真糊糸目友禅で染められています。
上質な絹地に染め描かれた真糊糸目友禅は、琳派を想わせる日本画の様でもあります。
地色として染め施された色の質感覚．．、それは単純に友禅の背景ではないのです。「絵」のある位置に対して何かを感じさせる"間"とで言うのでしょうか．．、その"間"があるから、この「絵」＝「笹に雪」が眼に飛び込んでくる様に映る。
何も描かない事で、何かを感じさせると言う技法は、友禅と言うよりも、この国に伝わる絵画技法の思考に近いの様なのですね。
そして、この"間"に施された色彩は、極上の友禅でしか出せないデリケートな"色"です。肌に近い色．．、ベージュ．．、もしかしたら灰色を感じるかもしれません。
この友禅の主題は、「雪持ち笹」．．、冬を想わせる友禅です。
しかし、冷たさと言うか．．、冷気のようなものは伝わって来ないんですね。季節や時季を想わせるにも関わらず、刺さる様な冷たさは、この友禅にはありません。
それも、この友禅を手掛けた者の意識のようです。
時季を想わせるだけで、冬の冷たさを伝えることを必要とはしていない。帯は、あくまでも装いであって、視覚的な冷たさをも感じさせる必要はないのす。
施された地色ですが、この色こそが、冷たさを伝えない色なのかも知れません。先程、お伝えした「肌の色」「ベージュ」．．、こうした色は、ひとの視覚に柔らかさを伝える色目に属します。「雪持ち笹」なる「絵」からは冷たさが伝わって来るのかもしれないけれど、地色に柔らかな色を施すことで、冷たさを相殺しているんだと思います。
「色」と「絵」の対比的な効果を計っているのです。

使われている彩色は多くないのかも知れません。
派手やかな印象はありません。しかし、優雅な気持ち．．、上品な気持ちを想わせてくれる「絵」として映るんですね。
友禅として"巧い"のです。日本画を想わせる繊細さと品位を保っているのです。
染め描かれた「笹」の精緻な友禅と「雪の重さ」を感じさせる緩やかなる「しなり」は、染めのものとは想えない程の絵画性を伝えているかと思います。

しかし、この「雪持ち笹」は、絵画ではなくて、帯地として染め描かれています。
着物に対する帯なんですね。
この「雪持ち笹」からは時季を想うことが出来ますが、冷たさは感じられません。しかし、帯として使われた際には、お太鼓に表現される「絵」は、友禅の意識を離れ、琳派調子の日本画を想わせる．．．、友禅の色彩感性と、日本画的な描写を巧みな均衡の中で表現されているのです。
まるで日本絵画の様な友禅です。

単調なる季節の題材かもしれませんが、飽きる事ない京友禅の美しさ/豊かさが感じられる逸品としての染め名古屋帯です。