草木染め手織双紬
使用染料：矢車附子

表情さえも漂っているかのような彩りや優しげな素材感は、この織物の美しき個性なのかもしれません。
緯糸だけはなくて、経糸にも手引きの真綿糸を使い織り上げられた真綿双紬。
真綿糸は、文字通り繭を解して袋状にした真綿から、職人の手で引き出して織糸としたものです。人の感覚を頼りにつくられているため、糸としては不均一であるけれども、真綿糸でしか伝えられない温もりや柔らかな質感が生まれます。
そんな真綿糸に、植物(矢車附子)からつくられた色が染められています。少し離れてみるとオフホワイトを想わせる無地の織物のように映るかもしれません。けれども、この真綿双紬には無地織にはない「心地の良い気配」みたいな感覚を憶えます。繭の柔らかさを残した真綿糸と植物から得た彩りを調和させた、唯それだけの織物でありながらも、「経（たて）」に浮き上がる織の景色は、ほんの少し前に切り出されたれたばかりの白木のような美しさと重なります。

この織物を制作したのは機屋ではありません。
染料となる植物を自然採取するところから、織物制作に関わる仕事のすべてをひとりで賄っている織人が手掛けています。草木染めをする際にも、採取した植物の時季や状態を想いながら色を出して行くことが出来るそうです。
草木染めならでは彩りが、織り混ざり、繋がりながら、自然の色彩の景色が表現されています。無地織にはない草木染めの彩りの豊かさと制作者の感性が魅力的な真綿双紬です。