本場結城紬 地機
格子織 九寸名古屋帯
地機織.本場結城紬の九寸名古屋帯です。
本場結城紬と言う前提みたいなものの前に、織物として、この帯地をみてみても..、この織物は、とても良く出来ています。
まずは簡単に「織物」と言うと..、特に、平織と言って、経(たて)と緯(よこ)の織糸を単純に織り出して行く織物があります。紬織なんて言われる多くの絹織物などは、こうした平織の織物なんですね。
染色が施された織糸..、色の付いた糸を織り込んで行くことで、生地の柄模様、景色をつくって行く訳です。
それでは綺麗な織物..、感じの良い織物とは、どんな織物なんでしょうか?
精緻精巧で、草木で煮出した色を染めた..、云々と言う前に、主観的な、気分的な感じで織物を想うと、やはり、「ひと」の手が掛かっている感じを伝える空気感とか色の感じはどうあれ生地の表面の質感の美しさみたいなものに、眼にする者の感覚が響くのではないでしょうか?
何となく窮屈な感じのする織物や色や織物の質感に「妙な重たさ」みたいなものが感じられては、眼にしていて、あまり心揺れるものではないと思います。
こちらに掲載をさせて頂いた織物なんですが、「色の感じ」とか「素材感覚」が、とても巧くつくられていると思います。
使われている色なんですが、その殆どが「甘い感じの色」が使われている。そして、まるでそれぞれの色が存在感を控えるかのようにコントラストの低い色同士が並んでいる。
ひと肌を想わせる色が、基調となっています。白色と黄色(?)..、そして、ちょっとしたアクセントとして紫系の色が縞織の縞として織り込まれている。
制作する者のイメージは、おそらくはこうした「色印象」と「本場結城紬の素材感」を活かした織物を図ったのだと思います。
本場結城紬は、繭から真綿をつくり、その真綿より引き出しただけの糸..、真綿糸を使い織り上げられています。
職人の指先で引き出されたの真綿糸は、細く々々引き出されただけで、撚り合わせさえもされていない。そんな織糸だけが使われているから、本場結城紬は、柔らかくて、軽い..、そして、軽いのは真綿糸に空気を孕みやすいからなんですね。
本結城紬、特に地機織は、何から何まで、手仕事だけでつくられています。合理化とか、機械化された素材や制作手法はありません。
そのためなのか..、地機の本場結城紬は、手触りや感触からは、"製品"の匂いはありません。むしろ、オーガニックな空気感が伝わってくるんですね。
こうした「色印象」と「素材感覚」は、実は、本場結城紬でなくては表現することが出来ないのです。
ふわっとした空気をはらむ質感が、色目とか格子+縞に、真綿特有の柔らかさを想わせている...、色と糸、縞と縞が、すべて曖昧で、朦朧とした感じをつくっているんです。
経と緯の直線が織り出されているだけでつくられている筈の縞であり、格子であり、生地ある筈なのに、全くシャープな感じがない。むしろ、僅かずつ何かがずれているかのように..、滲んでいる?のかもしれない。
「ひと」の指先からつくられる真綿糸、そして、地機がつくる色と質感は..、何もかも「ひと」の手仕事と感覚でつくられているために、心地良い感じに「ずれ」ているようなんですね。計算されて出来るものではない..、色や質感におおらかさみたいものが感じられるんです。製品には絶対ない感じなんです。
"着物として着やすい"筈の地機.本場結城紬で帯地を誂えると言うのは、少々贅沢なお話かもしれません。でも、この織物から感じ伝わってくる「空気感」は、他の織物では得られない訳です。
手に馴染み、そして、格別な空気感を伝えてくれる帯地なのです。
最後に..、不思議ですね。
そもそも真綿の織物であって、普段遣いを想定しても可笑しくはない織物ですが、どこか余所行きな感じもしない訳ではない。この織物の空気感には、それとなく「お行儀の良い感じ」がひそんでいるのだと思います。上品な遊び心みたいなものを想いながらお楽しみ頂ける帯地です。
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