岡本隆志 作
型絵染め九寸名古屋帯

眼に映るもの写実的に描こうとする表現方法があります。「赤は赤であり、花は花である、そして、四角は四角である」とされる暗黙のルールで描かれるのです。
ある視点で言い換えると、視覚に忠実であろうとする表現形式でだとも言えるのではないかと思います。

また、それとは別に、制作者が眼にしたものが、制作者の主観に影響を受け、表現される場合があります。表現されるものは、制作者の眼を通じて、感じられた「もの」であり、「色」であり、「型」でもあるのです。「赤」が「黄色」になることもあるかもしれないし、「花」は「花」とは解されないものになっているかもしれないし、「四角」は「丸味」を帯びているかも知れません。そのため、表現された「もの」が、現実の「それ」とは大きく違っていることもあり得るかもしれません。制作者が「もの」を眼にして感じる様や印象が主題となっているのです。
そして、更に．．．、制作者が感じたものが、感情のもう少し上、理性的な感性によって表現されることもあります。眼にしたものや感じたものを、制作者の理性的な感性で書き換えられるのです。デザイン性と言えば言い過ぎてしまうかもしれませんが、元々の姿形が意図的に全く違ったものとして表現されるのです。しかし、それはあくまでも制作者の理性的な感性によるもので、制作者以外の誰かが「元々の姿型とは違う」と捉えても、制作者の表現としては眼にしたものを表現しているに過ぎないのです。

こちらに掲載をさせて頂いた作品は、国画会：染織家岡本隆志氏の型絵染めです。
この作品は、先に申し上げた"理性的な感性"を感じさせてくれます。
この制作者が、何を眼にしてこの作品に至ったのかは憶測の中でしかありません。およそ、着物や帯の「絵」と言う印象から一歩も二歩も出ている様でもあります。まるでモザイクの様なデザイン性を想わせてくれます。心赴くままに描かれたものではありません。眼にしていて無理が感じられないのです。描かれている「絵」そのものも、彩色にも、統一感があるのです。眼にしていて戸惑うこともありません。それは、この型絵染めのデザインが完成された型に至っているからなのだと思います。

ただ、「綺麗」「美しい」「はなやか」と言う帯地ではありません。制作者の"表現力"が感じられる作品なのです。こうした作品を帯地として使うことは、それまでの着物の楽しみとは"もうひとつ"違うニュアンスの楽しみを憶えることができるのではないかと思います。

＊この作品には、顔料、草木染料など天然染料が使われているため、擦ることで色移りすることがございます。