摺り型友禅.日本刺繍/塩瀬染め帯
江戸帛紗.羽子板.菊模様

黒に染められた絹布に、艶やかな柄模様が、浮き上がっているかの様に染め出されています。
羽子板に．．、化粧箱に．．、水引き．．、そして、菊．．、どれも、慶事を想わせる図案。
この図案の出典は、「江戸帛紗」なる染め帛紗とのこと．．、江戸時代.大名家などで愛好された輿入れなどに使われた帛紗とのことです。
古典模様が、時代や、流行り廃りを超えた、艶やかさで絡ませて眼に映るのです。

さて、この染め帯なんですが、刷り型紙を彩色の数だけ染め重ねることで染め描く、摺り型友禅なる手法と、日本刺繍でつくられています。図案と彩色は、手描き友禅ではないんですね。
だから、黒の地色、背景に対して、図案が直(じか)に載っている感じがある．．、糊糸目の痕がないんですね。
摺り型紙を一枚々々染め重ねているため、図案と言うか、絵そのものに、奥行きがあります。
菊の花、葉っぱ、茎．．、自然の植物には、彩色濃淡を使い分けているのに対して、羽子板や化粧箱には、あえて彩色濃淡が使い分けられていない。自然/天然の植物の特徴と、工作品の特徴を、摺り型友禅という手法で、使い分けて、染め出しているんです。

また、彩色だけをみても、やたら、図案を飾るかの様に彩色が施されている様ですが、この彩色の印象は、艶やかと感じられることをあっても、色の煩(うる)さと言う感じはない。
妙な、派手さと言うのでしょうか．．、ただ、あざやかに、ただ、派手な感じにと言う印象も、伝わってこない。
これは、摺り型友禅で、彩色が、巧妙に染め重ねられているから．．、そして、その彩色そのものが、図案の中に、きちんと整い、揃えられているための様なのです。彩色の奥行き、厚みが、眼に柔らかく映るようなんですね。

そして、この染め帯のもうひとつの仕事．．．、日本刺繍が、所々に施されている。
この刺繍は、この図案の奥行きを、更に特に、深めている．．、「菊」に施された彩色の濃淡や、艶やかなる彩色以上に、図案に深みが増しているよう眼に映るのです。

この黒色の染め帯なんですが、とても艶やかな彩色印象で飾られています。
そして、この染め帯には、上質の職人仕事が施されている．．．、そもそも、この図案の本歌となった江戸時代の「江戸帛紗」と同じ程度の仕事が施されているのかもしれない。
この染め帯をみていても．．、古いとも感じられない代わりに、一概に新しいとも感じられないのです。まずは、特有の彩色の艶やかさと、上品さ、そして、上質な存在感が伝わって来る筈です。
江戸時代の「麗しき古典の美しさ」を、巧妙な職人仕事で復元した逸品です。

慶事、余所行きの帯としてお楽しみ頂けます。