洛風林制作： 九寸名古屋帯
『花十字文』

花模様の真ん中の十字架(?)が配されたデザイン性は、西陣の織物では見掛けないイメージではないでしょうか？
その十字架のような模様と花模様だけではなくて、この帯に織り出された模様は、対称形を基本にデザインされています。そして、同じで模様が繰り返されているだけにも関わらず、しばらく見ていても、どこか心地良さを憶えます。模様と模様、そして、彩色のバランス感覚が、丁度良い感じで収まっているなのかもしれません。

けれども、デザインの時代性や文化の由来のイメージは明瞭には伝わって来ません。十字架のような模様が印象的に映りますが、その隣には、菊の家紋が織り出されています。

この『花十字文』は、古い段通からデザインが興されているとのことです。江戸時代、大陸から渡来した段通を起源として、それ以降、日本で制作された段通は、渡来したさまざまな文化の模様も、日本古来の模様と一緒にデザインされて行きます。もしかすると、『花十字文』に心地良さを憶えるのは、暮らしの中にある装飾品から生まれたデザインだからなのかもしれません。

一見、無国籍的なデザイン性に彩られながらも、伝統的な着物の柄模様にも馴染んでくれます。遊び心と趣味性が漂う素敵な名古屋帯です。

制作：洛風林